高血圧に効く運動療法 – 運動で血圧は下がる
適度な運動は血圧を下げる効果があります。
しかし、運動が効果的だと分かっていても、なかなか実行できないという人もいるでしょう。また、年齢や体力によっても効果的な運動の方法は変わってきます。
では、どのような運動をどれくらい続ければ効果があるのでしょうか?そこで、今回は高血圧に効果がある運動療法についてご紹介したいと思います。
目次
運動で血圧が下がるのはどうしてか?
適度な運動は、糖尿病や肥満を始めとした生活習慣病の予防や改善に効果的です。
もちろん、高血圧に対しても運動療法は大変効果があることが分かっています。適度な運動が高血圧患者に対して降圧効果があるということは、福岡大学の荒川規矩男名誉教授らの研究によっても明らかになっています。
- 心拍数で毎分約120拍になる程度の有酸素運動を、1日30分ずつ行う
- 1〜2週間目から着実に血圧が低下していく
※毎日30分間の運動ができない人の場合、1日おきに30分間の運動を行っても、ほぼ同等の降圧効果が見られることも報告されています。
運動によってどうして血圧が下がるのか?そのメカニズムには、様々な作用が複雑に関係し合って血圧を下げていると考えられます。
運動を始めると、しばらくは血圧が上昇して心拍数もかなり増加します。しかし、運動を続けることで徐々に血圧の上昇も心拍数も少なくなってきます。これは、運動に伴って亢進する交感神経活性が徐々に生じにくくなるためです。
運動による降圧のメカニズムには、降圧効果のあるホルモンや、降圧物質であるドーパミンやプロスタグランディンE、あるいはタウリンが運動に伴って増量することにあります。
- 利尿促進
- 心拍出量の低下
- 血管拡張による血管抵抗の低下
- 血液粘稠度の低下
- 昇圧ホルモンであるノルアドレナリンの分泌抑制
運動することで働くこれらの作用によって、血圧が下がると考えられているのです。
運動は高血圧の予防にも効果的?!
運動の有用性を証明する有名な研究に、米国の名門ハーバード大学の卒業生を対象に行ったものがあります。これは血圧と運動習慣の関係を明らかにしたものです。
この研究によると、比較的強度の高い運動(ジョギング、水泳、テニス、ハンドボール、クロスカントリーなど)を習慣的に行っている人に比べ、こうした運動を行っていない人は、将来高血圧になる確率が1.35倍高くなることがわかりました。
また、通勤や運動、レジャーなどによる1週間の消費エネルギーの合計が2000kcal未満の人は、それ以上消費している人に比べて、将来高血圧になる確率が約1.3倍高くなることも報告されています。
この研究結果によって、定期的に体を動かすことの大切さが初めて科学的にも証明されたのです。
日本でも、運動が高血圧発症を予防することを証明する論文が90年代に発表されています。
東京ガス健康開発センターが、日本人を対象として、「体力と新規の高血圧発症との関係」を調べた研究を行いました。
それによると、最も体力の低いグループでは、最も体力の高いグループに比べて、新規高血圧の発症頻度が1.9倍も高かったという結果があります。
これは、「高血圧と運動療法」の関係を示す上で、日本人にとっても説得力のある研究結果だと言えます。
高血圧に効果的なのはマイルドな運動?!

ただ漫然と運動を始めるのではなく、ある程度の「強度」を意識することが大切。
それでは、実際に血圧を下げるのに効果的な運動方法とは、具体的にどのようなものになるのでしょう?
血圧を下げるのに効果的な運動というのは、その強さが需要になります。高血圧の人でも安全で降圧効果を期待するには、運動強度というものを設定しなければなりません。
その運動強度の指標となるのが、運動によって作り出される「乳酸」という物質です。乳酸は疲労物質とも呼ばれ、体の中で増えることで「疲れ」や「だるさ」を感じるようになります。
この乳酸は運動をすることで血液中に増加してくるのですが、その増え方には運動の強度と大きく関係があります。
運動をしてもある程度の強度に達するまでは、この乳酸はほとんど増えないことが分かっているのです。
血圧を下げるのに効果的な運動強度は、乳酸が増えない程度の軽い運動ということになります。例えば、ウォーキングなら少し早足で、うっすら汗をかく程度のマイルドな運動です。このような運動であれば、乳酸も増えないので疲労感も少なくなります。
運動強度はきついほど効果があるように思われる人もいますが、実はそうではありません。ハードな運動では乳酸が増加して、「ノルエピネフリン」「バソプレシン」「アルドステロン」「レニン」「アンジオテンシン」といった物質が体内で増えることになります。これらの物質は血圧を上げる作用を持つ、「昇圧物質」と呼ばれるものです。
運動が激しくなるほど、これらの物質が増加するので、「血圧を下げるための運動」という目的とは逆効果となってしまいます。
ハードな運動なら良いというわけではない。むしろ、「血圧を下がる」という目的からすると、激しすぎる運動は逆効果になる場合がある。
血圧を下げるのに効果的な運動方法とは?
このようなことからも、高血圧の人にとって望ましい運動とは、激しく体を動かすような運動ではなく、ゆっくり体を動かして酸素を十分取り込みながら行える「有酸素運動」ということになります。
中でもおすすめなのは、少し早歩きのウォーキングで、息切れしない程度のスピードがいいでしょう。
また、同じ運動でも人によって体への負担は異なりますので、自分に合った強度の運動を行うことが大切です。運動強度は運動中の脈拍を目安にします。
運動中の脈拍の測り方
- 3〜4分運動したら、15秒間脈拍を測る
- その数値を4倍して、1分間の脈拍数を出す
運動中の最適な脈拍の目安
年齢 | 運動中1分間の脈拍数 |
29〜36歳 | 124〜120 |
37〜44歳 | 120〜116 |
45〜52歳 | 116〜112 |
53〜60歳 | 112〜108 |
61〜68歳 | 108〜104 |
69〜76歳 | 104〜100 |
77〜84歳 | 100〜96 |
85〜92歳 | 96〜92 |
※福岡大学 荒川教授らの研究による
こうした軽めの運動を30分〜1時間、毎日続けるのが理想的です。毎日が無理な場合でも、週3日行うと効果が得られやすいです。
適切な運動を継続して行うことで、1〜2週間後には最大血圧値が下がってきます。更に、2〜5週間後には最小血圧値も下がる効果が出てきます。
しかし、仕事などで普段なかなか運動できないという人も多いと思います。そんな場合は、通勤時間が高血圧を予防することにつながります。
通勤での歩行時間が21分以上の人は、10分以下の人に比べて新規高血圧の発症頻度が3割程度少ないという研究結果があります。
運動する時間が取れない人は、通勤でなるべく歩く時間を増やすといいでしょう。
運動は毎日しないと効果がないのか?
運動は毎日しないと効果がないのかというと、そうでもありません。
日本人を対象とした研究結果によると、降圧効果は週30〜60分でも認められ、61〜90分になると更に効果は高まり、それ以上増えてもさほど変化はなかったようです。
つまり、運動で血圧が下がる効果には、「量との反応関係」は低いということになります。
また、運動頻度から見ても、少ない頻度でも降圧効果が得られる可能性が報告されています。
これは、普段なかなか運動できないという人にとっては朗報かもしれません。
しかし、運動不足によって引き起こされる肥満や高脂血症、糖尿病などの生活習慣は、高血圧とも深く関係しています。特に肥満と高血圧は合併しやい傾向にあります。
このようなことからも、適度な運動は高血圧の予防や改善には配慮する必要があります。
高血圧の予防や改善には、1回30分で週に90分の運動を目安として、できるだけ頻度を上げることが効果的でしょう。
運動は継続することで血圧が下がる?!
運動の血圧を下げる作用には、大きく分けて「慢性効果」と「急性効果」があります。
運動の慢性効果と急性効果
- 慢性効果
一定期間運動を続けることで得られる効果 - 急性効果
1回の運動によって得られる効果
血圧を下げる効果については、習慣的に行う慢性効果でも、1回だけのトレーニングによる急性効果でも、血圧が低下することが確認されています。
高血圧に対する運動療法を検討した研究では、ほとんどが有酸素運動を用いて行われています。いったい、どれくらいの降圧効果があるのでしょうか?
運動療法による慢性効果を研究したもので、その成績を統計解析したものがあるので見てみましょう。
運動療法による降圧の慢性効果
高血圧者 | 収縮期血圧で−10mmHg前後、拡張期血圧で−8mmHg前後 |
正常血圧者 | 収縮期血圧で−3mmHg前後、拡張期血圧で−2mmHg前後 |
数値だけ見ると、以外に少ないと感じるかもしれませんが、血圧が2mmHg下がると、脳卒中の発症リスクは15%前後も下がると言われています。
このように見ると、8〜10mmHg血圧が下がる効果はとても大きいと言えるのです。
年齢によって運動効果に変わりはないのか?
運動が血圧を下げるのに効果的だということはわかったのですが、そこで気になるのが、どの年齢の人でも効果に変わりはないのか?ということです。
高血圧の発症年齢は非常に広い範囲に渡っています。高血圧に対する運動効果は、若年者と高齢者では同じなのでしょうか?
この疑問は、これから運動療法に取り組もうと考えている高血圧患者さんにとっては重要な問題です。もし、年齢によって効果が出にくいということになれば、早い段階での薬物治療が必要となるからです。

運動療法を継続するべきか、降圧剤に頼るべきか、悩む人も多いはず。
この疑問を解くために、「高血圧に対する運動療法の研究成績」を調べた研究結果があります。
それによると、対象年齢を21〜40歳、41〜60歳、60歳以上のグループに分けて見たところ、どのグループとも血圧は下がっていたということです。
特に収縮期血圧が最も下がっていたのが41〜60歳のグループで、拡張期血圧は比較的若年グループで下がりやすいという結果が出ています。
また、41〜60歳のグループでは、収縮期・拡張期とも80%以上の症例で効果が認められています。
このような結果からも、運動は幅広い年齢に対して血圧を下げる効果があるということが言えます。その中でも特に、中年者には効果が現れやすいということになります。
運動がすぐに効かない人もいる?
運動を続けていても、全ての人に降圧効果があるというわけでもありません。運動療法は非常によく効く人と、あまり効果がない人がいます。
これは、降圧薬などの薬の効き方にも見られることです。高血圧のタイプによって、同じ降圧薬でも人によって効果は異なってくるのです。
運動療法にも、これと同じことが言えます。一体、運動療法での降圧効果がある人と、そうでない人にはどのような違いがあるのでしょう?
福岡大学の荒川教授らの研究によると、次のようなタイプの人が運動療法による降圧効果が現れやすいということがわかりました。
- 普段から運動もあまりしておらず、体力(最大酸素摂取量)の低い人
- 最小血圧が105ミリ未満の軽症高血圧の人
- 塩分摂取量が多く、体内の水分(血液量)が多い人(容量依存型の高血圧)
- 肥満の人
- ストレス過剰の人
- 心拍出量が高く、末梢血管抵抗が高くない人
- カテコールアミン(血圧を上げる働きのある物質)が高い人
- 低レニン型高血圧の人(血漿量が多い)
- インスリン抵抗性の人
- ACE(アンジオテンシン変換酵素)遺伝子多型性の中でII型を持っている人
中でも一番効果が現れたのが、普段から運動をしていなかった人です。
このようなタイプの人は、運動を続けることで血圧が下がるだけではなく、運動能力も顕著に上がってきます。
これまで運動をしていなかった分、その効果も現れやすいというわけです。
運動療法を行う利点とは?
このように、運動療法は高血圧のタイプなどによって、その効果の現れ方も異なってきます。
しかし、降圧薬で血圧を下げる場合と大きく違う点は、副作用やリバウンドがないということです。
降圧薬は服用を続けることで耐性がつくため、止めると急激に血圧が上がる危険性があります。また、薬には付きものである副作用の心配もあります。
しかし、運動療法の場合だと、しばらく運動ができないで止めたとしても、急激に血圧が上がるということはありません。
運動を止めたとしても、徐々に時間をかけて元の血圧に戻っていきます。しかも副作用などの心配もないのです。
この点は、降圧薬と運動療法とでの大きな違いであり、運動療法を取り入れる大きな利点であるということが言えるでしょう。
毎日の食事で血圧を下げるには?
運動療法は高血圧の予防や改善に効果的なことはおわいただけたかと思います。
しかし、いくら運動していても高血圧が改善されない場合もあります。それは、運動以外の生活習慣で血圧を上げる要因があるためです。
特に食生活は血管の状態に大きく影響してくるため、気をつける必要があります。
日頃から血管に負荷がかかるような食事をしている人は、一度見直してみる必要があるかもしれません。
そこで、毎日の食事に取り入れたい“血管に良い食べ物”をこちらの記事で紹介していますので、参考にしてみて下さい。
血管ケアに優れた食べ物を毎日積極的に食べることで、血管の老化を遅らせることも可能です。
血管がイキイキと若返ることで、高血圧の予防や改善にも大きく期待することができます。
是非、運動療法と合わせて、食生活の見直しも行ってみてはいかがでしょう?